時計を愛する者ならば一度は考える「何本持つべきか」という問い。よく言われるのは使用シーン(用途)をイメージしてそれぞれのシーンで時計をコレクションするというもの。その点で言えば最低限として日常を支える一本(ビジネス用)とフォーマルな場にふさわしい一本(ドレスウォッチ)になるかと思います。私はここに、使用シーンの基準とは別に時計の楽しさを純粋に感じられるクロノグラフを加えた3本持ちを提案したいと思います。
この3本が揃えば、どんな場面にも、どんな気分にも、そしてどんな自分にも寄り添ってくれるはずです。
日常用──信頼できる相棒としての一本
日々の生活の中で最も手に取る機会が多いのが、いわゆる“デイリーウォッチ”です。この時計に求められるのは、まず何よりも視認性。忙しい朝、ふとした瞬間に時間を確認する際、瞬時に読み取れることは大きな安心感につながります。また、防水性や耐衝撃性といったタフさも欠かせません。雨の日も、旅行先でも、気兼ねなく使えることが信頼の証です。
さらに、着け心地の良さも重要な要素です。軽量で腕に馴染み、長時間着けていてもストレスを感じさせないこと。デザイン面では、カジュアルにもビジネスにも自然に馴染む汎用性のあるデザインがおすすめです。
フォーマル用──場を整える静かな品格
冠婚葬祭やビジネスの重要な場面では、時計もまた“装い”の一部としての役割を果たします。ここで求められるのは、主張しすぎず、しかし確かな品格を備えた佇まい。薄く、シャツの袖口にすっと収まり、文字盤はシンプルで控えめ。革ベルトであれば、よりフォーマルな印象を与えることができます。
この種の時計は、持ち主の価値観や美意識を静かに語ります。ブランドの信頼性や歴史も、フォーマルな場にふさわしい説得力を与えてくれるでしょう。
クロノグラフ──操作する喜び、眺める楽しみ
そして最後に、実用性やTPOとは少し離れた、純粋な“楽しみ”のための一本として、私はクロノグラフを挙げたいと思います。ストップウォッチ機能を備えたこの複雑機構は、プッシャーを押す感触や針の動きそのものが、所有者に特別な体験をもたらします。
また、クロノグラフは多針ゆえに文字盤のデザイン自由度が高く、ブランドごとの個性が色濃く表れるジャンルでもあります。左右非対称のインダイヤル配置、タキメーターのスケール、赤いクロノ針のアクセント。そうしたディテールに宿る美意識を味わうことは、時計趣味の醍醐味のひとつです。
さらに、クロノグラフのムーブメントは構造的にも複雑で、技術的な探究心をくすぐります。たとえ日常的にストップウォッチ機能を使う機会が少なくても、「使える」「触れる」「眺められる」こと自体が、所有の喜びを生み出してくれるのです。
このように、日常用・フォーマル用・クロノグラフという3本があれば、実用性・場面対応力・趣味性という三つの軸をすべてカバーできます。もちろん、時計の世界は奥深く、気づけば本数が増えていくのもまた自然な流れでしょう。しかし、あえて「3本でいい」と言い切ることで、一本一本に込める意味や選ぶ基準が研ぎ澄まされていきます。
増やすことよりも、選び抜くこと。数ではなく、役割と意味で構成されたコレクションは、持ち主の美意識と哲学を映し出す鏡となるはずです。
おすすめ時計紹介
ここからは、日常用、フォーマル用、クロノグラフの3種類に対して、それぞれ私がお勧めする(自分が欲しい?)時計を2本ずつ紹介します。
日常用
ロレックス デイトジャスト──日常に寄り添う完成形
デイトジャストは、時計の基本形を極めたモデルとして広く知られています。視認性の高い文字盤、堅牢なケース、そして日付表示という実用性。それらがバランスよく融合し、日常使いにおいて過不足のない安心感をもたらします。スポーティすぎず、フォーマルすぎず、どんな服装にも自然に馴染む汎用性の高さも魅力です。長年にわたって愛され続けているのは、単なるブランド力ではなく、日々使う道具としての完成度の高さゆえでしょう。

Ref. 126234 出典:ロレックス公式サイト
サントス・ドゥ・カルティエ──エレガンスと実用の交差点
カルティエのサントスは、ジュエラーが生んだ実用時計というユニークな立ち位置を持ちます。スクエアケースにビスを配したデザインは、クラシックでありながらモダン。ブレスレットと革ストラップを簡単に交換できる機構も備え、日常の中で気分や装いに合わせた使い分けが可能です。エレガンスと機能性が共存するこのモデルは、時計を“装う”ことの楽しさを教えてくれる存在です。

Ref. WSSA0029 出典:カルティエ公式サイト
フォーマル用
パテックフィリップ カラトラバ──静けさの中に宿る威厳
カラトラバは、パテックフィリップが誇る最も純粋なドレスウォッチです。ラウンドケースにシンプルなバーインデックス、そして薄型のプロポーション。時計の本質を突き詰めたような佇まいは、まさに“控えめであることの美しさ”を体現しています。現行モデルは正規価格で500万円を超えるものが多く、手の届きにくい存在ではありますが、過去のモデルには同じ哲学を宿した選択肢も存在します。時計における「静かな威厳」を求めるなら、カラトラバはその最上位に位置する一本と言えるでしょう。

Ref. 6119R-001 出典:パテックフィリップ公式サイト
ジャガールクルト マスター・コントロール──技術と品格の融合
マスター・コントロールは、ジャガールクルトの技術力と美意識が融合したシリーズです。1000時間の厳格なテストを経て出荷されるこのモデルは、信頼性と精度において高い水準を誇ります。デザインは控えめでありながら、細部まで丁寧に仕上げられた造形が静かな存在感を放ち、フォーマルな場面に自然と馴染みます。シンプルな3針からトゥールビヨン搭載の複雑なモデルまで展開され、実用性と品格を両立した一本として、日常とフォーマルの境界を柔らかくつなぐ存在です。

Ref. Q1248421 出典:ジャガールクルト公式サイト
クロノグラフ
オメガ スピードマスター プロフェッショナル──時を超える実用クロノグラフ
「ムーンウォッチ」の愛称で知られるスピードマスター プロフェッショナルは、NASAの公式装備として月面に降り立った唯一の時計として、その名を歴史に刻んでいます。手巻きムーブメント、3つ目のインダイヤル、そしてタキメーター付きベゼルという構成は、クロノグラフの王道的スタイルを象徴するものです。さらに、この基本デザインは数十年にわたり大きな変更を受けることなく継承され続けており、時代を超えて愛される普遍性を備えています。操作感の確かさと、視認性の高いレイアウトは、実用機としての信頼性を今なお保ち続けています。機能美と物語性が共存するこのモデルは、クロノグラフの魅力を知るうえで避けて通れない一本です。

Ref. 310.30.42.50.01.001 出典:オメガ公式サイト
ブライトリング ナビタイマー B01──複雑さを楽しむための計器
ナビタイマーは、航空計算尺を搭載した独自のベゼル構造で知られる、パイロットウォッチの象徴的存在です。B01ムーブメント搭載モデルは、自社製クロノグラフキャリバーによる高い精度と信頼性を備えつつ、視覚的にも圧倒的な情報量を誇ります。多針・多スケールの文字盤は一見複雑ですが、それゆえに“操作する楽しみ”が際立ちます。クロノグラフを「使う道具」としてだけでなく、「眺める喜び」として味わいたい人にとって、ナビタイマーは格別の存在感を放ちます。

Ref. AB0138211B1P1 出典:ブライトリング公式サイト

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