ロレックスのCal.32XX系ムーブメントは、2015年に登場した現行世代の3針ムーブメントです。
「精度」「耐久性」「耐磁性」「メンテナンス性」などあらゆる面で優れた性能を備え、まさにロレックスの技術力を象徴する存在となっています。
ここでは、その「凄さ」の本質を様々な視点から徹底解説します。

出典:ロレックス公式サイト
高精度クロノメーターとしての信頼性
ロレックスのCal.32XX系を語るうえで外せないのが、群を抜いた精度基準です。
公的機関であるCOSCのクロノメーター検定は、日差-4〜+6秒を合格ラインとしています。これはスイス時計業界における一つの品質保証ではありますが、ロレックスはそこにとどまりません。自社基準として「日差±2秒以内」を課し、さらに時計全体を組み上げた状態でテストを行っています。つまり、単なるムーブメント単体ではなく、実際に腕につけて使用されることを想定したうえでの精度保証なのです。
しかも驚くべきは、その徹底度です。
限られたハイエンドモデルだけを調整しているわけではなく、年間100万本以上の全製品が、自社基準である±2秒以内の精度テストに合格しています。精度の高さを謳うブランドは数多くありますが、ここまで「大規模生産と徹底した品質保証」したメーカーは世界でもごく限られています。
この精度は実際のユーザー体験にも直結します。例えば、一週間時計を使用していても、わずか数秒程度しか誤差が生じない。これは「時間を知る」という時計本来の役割を、機械式時計でありながら極めて高いレベルで実現していることの証明なのです。
独自技術の数々
Cal.32XX系の高性能を支えるのは、ロレックスが独自に開発・改良してきた数々の技術です。単に精度を高めるだけでなく、耐久性・耐磁性・メンテナンス性までも考慮した包括的な進化が盛り込まれています。
クロナジー脱進機
従来のスイスレバー脱進機を改良し、約15%のエネルギー効率向上を実現したのがクロナジー脱進機です。その秘密のひとつが、LIGA(リソグラフィ・電鋳・成形)技術を用いた製造プロセスにあります。これは半導体製造にも用いられる微細加工技術で、従来の切削加工では難しかった複雑かつ精緻な形状を実現できるものです。
結果として、軽量で耐摩耗性に優れたパーツが実現し、エネルギーロスが最小限に抑えられます。これが精度の安定化やパワーリザーブ延長に直結しているのです。

ブルーパラクロム・ヒゲゼンマイ
ロレックス独自のニオブ・ジルコニウム合金で作られたヒゲゼンマイは、外観が青色に輝くことから「ブルーパラクロム」と呼ばれます。磁気に強いだけでなく、温度変化にも安定しており、さらに従来の約10倍の耐衝撃性を誇ります。
日常生活では、スマートフォンやPC、バッグの留め金など磁気の影響を受ける場面は多々ありますが、このヒゲゼンマイはそうした外的要因をものともせず、安定した歩度を維持します。

出典:ロレックス公式サイト
パラフレックス耐震装置
ロレックスが独自開発した耐震機構「パラフレックス」は、テンプの軸を衝撃から守るために設計されています。一般的なインカブロック耐震装置に比べ、耐衝撃性能は約50%向上。登山やスポーツ、日常生活の不意の衝撃でも精度が狂いにくい構造です。

出典:ロレックス公式サイト
31XX系からの進化
Cal.32XX系は、前世代のCal.31XX系を単に置き換えるだけではなく、パワーリザーブの延長や時計の使い勝手の向上など、実用性の進化を遂げたムーブメントです。
パワーリザーブの延長
31XX系のパワーリザーブは約48時間でした。約2日のパワーリザーブは、週末に時計を外すと月曜には止まってしまうケースも多かったのです。
これを解決するためにロレックスは、香箱の再設計を行いました。ゼンマイを収める香箱の側壁を極限まで薄くすることで、内部に収められるゼンマイを長くし、結果として70時間(約3日間)のパワーリザーブを実現しました。これにより、金曜の夜に時計を外しても月曜の朝まで動き続ける、現代生活に適した利便性を手にしたのです。
クロナジー脱進機の導入
31XX系では従来型のスイスレバー脱進機を採用していましたが、32XX系では新開発のクロナジー脱進機に刷新。LIGA技術により実現した新しい脱進機は耐磁性に優れるとともに、ガンギ車を一部をくり抜き軽量化を図ることでエネルギー効率が約15%改善し、パワーリザーブの延長にも寄与しています。
日付操作の自由度
31XX系までは日付操作に「禁止時間帯(おおよそ夜9時~翌午前3時)」が存在しました。この時間帯に日付を早送りすると、カレンダー機構の歯車を痛めてしまうリスクがあったのです。
32XX系ではこの制約が解消され、いつでも安全に日付操作が可能となりました。ユーザーにとっての安心感と利便性を格段に高めた改良です。
✓ こうしてCal.32XX系は「31XX系の完成度をさらに押し広げ、現代のライフスタイルに最適化されたムーブメント」として位置づけられるのです。
仕上げとロレックスの哲学
ロレックスのムーブメントは、その高性能ばかりが注目されがちですが、見えない部分にまで徹底した仕上げが施されている点も忘れてはなりません。
ペルラージュ装飾
下図は前世代ムーブメントCal.3135を分解した写真ですが、そこでも確認できるように、地板や受けにはペルラージュ(円状の模様)が施されています(32XX系も同様)。もともとは、表面に微細な凹凸を作ることで異物を留めて歯車内部への侵入を防ぐという実用的な意味を持っていました。しかし、防水性が格段に高い現代のロレックスにおいては、むしろ審美性を高めるディテールとしての意味合いが大きいといえます。

出典:ウォッチチャンネル
「見えない部分にこそ美を宿す」哲学
ロレックスのムーブメントは、一見すると簡素に見えるかもしれません。しかし、ユーザーが普段目にすることのない内部の仕上げにまで手を抜かない姿勢が徹底されています。これは、「たとえ見えなくても手を抜かない」というロレックスの哲学に基づいたものです。
さらに特筆すべきは、エリートモデルとプロフェッショナルモデルの間で仕上げに差がないという点です。一般的には高級ラインほど内部装飾が豪華になる傾向がありますが、ロレックスは全モデルに同じ品質基準を適用します。この「公平な品質主義」こそが、ブランドが長年にわたり揺るぎない信頼を築いてきた理由のひとつなのです。
✓ ユーザーの目に触れない部分にまで妥協を許さない姿勢――こうした徹底ぶりこそが、ロレックスが単なる「人気ブランド」を超えて、真の高級時計メーカーとして評価される理由なのです。
まとめ:Cal.32XX系が示すロレックスの本質
ロレックスのCal.32XX系ムーブメントは、単なる世代交代ではなく、
- 高精度クロノメーターとしての圧倒的な信頼性
- 独自技術による耐久性・耐磁性の強化
- 31XX系からの進化による利便性の向上
- 「見えない部分」にまで及ぶ徹底した仕上げと哲学
といった多面的な完成度を兼ね備えています。
近年はその資産価値が注目されがちなロレックスですが、その真価はムーブメントにこそ宿っています。
Cal.32XX系は、100万本以上の大量生産を行いながらも、全てに同じ品質を貫くロレックスの姿勢を体現する存在。
✓ だからこそロレックスは「単なる人気ブランド」ではなく、「時計界の王者」と呼ばれ続けているのです。
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